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東京地方裁判所八王子支部 昭和45年(わ)442号 判決 1974年4月05日

主文

被告人小畑稔、同船戸秀世を各罰金二万円に

被告人渡辺春樹、同横森好和、同中村安元を各罰金一万円に

各処する。

被告人らにおいて右罰金を完納できないときは金一、○○○円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人小畑稔は国鉄動力車労働組合東京地方本部執行委員で教宣部長、同船戸秀世は同本部執行委員、同渡辺春樹は動力車三鷹電車区支部の執行委員長、同横森好和は動力車甲府機関区支部の執行委員で教宣部長、同中村安元は動力車八王子機関区支部執行委員長をしていた者らであるが被告人らは国鉄動力車労働組合東京地方本部所属の組合員であるが、昭和四四年五月三〇日同本部が行った「助手廃止、合理化反対闘争」の際、武蔵小金井電車区所属の労働組合員二名において運転業務を放棄したことから国鉄東京西鉄道管理局長より免職処分を通告されるに至ったところ、被告人らは右処分を不当とし、これに抗議する目的をもって、約一〇〇名の労働組合員と共同し、昭和四四年六月一六日午後一時五五分ころから同二時二〇分ころまでの間、東京都小金井市貫井北町一丁目一番一号所在、日本国有鉄道武蔵小金井電車区の鉄筋クンクリート四階建庁舎建物(管理者同電車区長鍬田祐之)の二階区長室、事務室、運転事務室、乗務員更衣室、検修事務室、三階検修要員詰所、第二講習室、四階第一講習室、休憩室、食堂、休養室の各南側透明窓ガラス合計一八○枚の外側の全面に「不当解雇粉砕」「首切り反対」「弾圧処分取り消せ」「反動区長出て行け」等と記載した縦三六センチ横一二センチおよび縦三六センチ横二五センチのビラ約九五二枚を、うどん粉糊を用いて貼りつけ、右窓ガラスを汚損し、その採光、視野を妨げ、もって数名共同して右器物を毀損したものである。

(証拠の標目) (略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は本件行為は組合の団結活動の範囲内の行動として違法性を阻却すると主張する。

よって按ずるに、証人中江富夫、同高橋嘉治、同井村昭彦、同畑俊克、同成山博、同渡辺進一、の各証言および前記各証拠ならびに被告人小畑稔の供述によると、昭和四二年三月一日国鉄当局は、同労組員に対し、五万人要員合理化案を提示し、爾来これに反対する労組員と対立し、昭和四三年九月二〇日闘争集約の条件としてEL、DL機関車の二人乗り乗務に関し調査委員会設置が約され、同年一〇月一八日同委員会が発足し、同委員会は翌四四年四月九日右機関車の一人乗務は可能であるとの報告書を提出した。国鉄当局はこれに基づいて労組員の同意なくとも同年六月一日より機関助手廃止し一人乗務を強行実施する態度を示した。そこで動力車労組本部においては、右委員会報告書は若干名の委員がほしいままに他の委員の関与なく作成されたことを知るとともに、安全性の調査の点についてじゅう分検証されていないものとして、これが実施に激しく反対し、国鉄動力車全国代表者会議を招集し、同大会で右実施に反対する闘争に入る旨決議され、これをうけた同動力車東京地方本部では同年五月二五日いわゆる順法闘争、同月二八日A、T、S闘争、同月二九日職場に籠城し、拠点指令をうけた時点より一二時間以上のストライキに入る旨を指令し、同月三〇日朝電車を運転して東京駅に到着した小金井電車区支部所属の組合員井村昭彦、同藤森力の両名に対し、電車もストライキに突入した旨伝えてストライキ参加を求め、両名がこれに応じて運転業務を放棄した。同年六月一四日国鉄西鉄道管理局長は右両名に対し国鉄法により懲戒免職処分の事前通知をなし、小金井電車区長鍬田祐之がこれを右両名に伝達した。ところが、前記五月三〇日闘争に参加した動力車労組は、同労組員に多数の解雇、免職、停職減給等の被処分者を出したため、同労組本部は右処分に対し、支部現場では現場長ないし職制を追及して処分撤回を求める行動を一斉に行うことを指令し、これをうけた同東京地方本部は、右処分に対する抗議集会、集団交渉、解雇、免職等のあった支部はブロック毎に抗議行動を同月一六日以降各支部一斉に行うことを決め、その旨各支部に指令し、同小金井電車区支部は右指令にもとずき同月一六日午前一〇時ころより同支部事務所に被告人らおよび東京西部ブロック労組員約一〇〇名が集合し、区長鍬田祐之と交渉したがその効果をあげることができず、一二時一五分ころより本件庁舎前広場で集会をもよおし、同所でデモ行進を行い、ついで本件ビラ貼り行動を行ったものである。国鉄当局ではあらかじめ右労組員の集会等が行われるのを察知し、西部ブロックの職制十数名を本件庁舎に動員する外鉄道公安職員若干名を右電車区内に配置し、警察機動隊の出動を要請して同電車区西側中央線寄り道路に装甲車の出動を得て、労組員の行動を監視する外、庁舎南側のベランダ上等より右労組員の集会、デモ行進、ビラ貼りに対し、マイクでその中止を呼びかけ、あるいは、その行動をカメラで撮影したりして、これを牽制していた。さて本件庁舎は小金井電車区西北隅にあって間口六四メートル、奥行六・六メートル、南方は庁舎前広場、留置線、洗車線を隔てて約二〇〇メートルで中央線に接するもので、庁舎南側の窓ガラスは合計四四二枚あり、そのうち本件ビラは各階ベランダより手のとどく下部一八○枚のガラスに前記大小のビラ等約九五二枚が雑然と貼られたもので、そのうち二階区長室約二・七メートル幅の同縦約一・一五メートル横約○・九七メートル二枚の窓ガラスに前記大、小のビラおよび縦約○・三六メートル、横約○・二五メートル四枚に不当弾圧と墨書したものなど合計八二枚、事務室一三・六メートル幅の右同窓ガラス五枚に二九五枚、運転事務室幅一三・五メートルの右同窓ガラスに一五九枚、四階講習室幅一三・五メートルの同窓ガラス八枚に一七三枚貼られ、右は、いずれも内部から外景透視不能となり、その余の各室は外景が部分的に透視できる状態になったもので、本来透視、採光用の窓ガラスの効用を毀損されたものである。

ところで、ビラ貼り活動は労働組合員の教宣活動、組合の団結強化にとって必要不可欠で、団結を維持強化するための中心的活動の一つであって、闘争の手段として使用者当局に対する抗議、示威行動として行われるものであり、実害が軽微で、その実害が使用者の業務遂行に客観的支障がない場合、もしくはその支障があったとしてもその程度が軽微な場合は使用者当局はこれが受認義務があり、又労使間に合意が存在するか又は慣行のある場合においては、ビラ貼り活動は正当な組合運動として違法性は阻却すべきであり、動力車労組は昭和二八年以降慣行としてビラ貼り活動をし、本件後も国労、動労が、共に、ビラ貼り活動をしていること、本件は前記井村、藤森両組合員が単にストに参加したという理由のみにより当局が前例のない国鉄法により免職処分をしたこと、右両名は、いずれも小金井電車区支部所属の労組員で、支部長または青年部学習部長として組合活動をしていたもので、右免職処分は動力車労組に対する弾圧を意味するものであること、前記免職処分は、その後東京地方裁判所および同高等裁判所において取り消されたこと。本件ビラ貼りがもっぱら右不当処分に対する抗議、示威のためにのみなされたこと。また、本件ビラ貼りが、前記のとおり異例の監視態勢や制止の下において刺激されて惹起されたこと、採光を妨げる程度は軽少であったこと等諸般の情況を考慮しても、本件ビラ貼りが前記のごとく広範囲にわたり多数枚にすぎたことは抗議、示威行動として許容さるべき範囲を越えたものというべく、本件外右庁舎の中央階段、コンクリート腰壁、手摺、ベランダ、洗面所内等に合計二千余枚のビラの貼られたことをあわせ考えると、本件ビラ貼り行為は正当行為の範囲を越えた違法があるといわざるを得ないと思われるので、弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

暴力行為等処罰に関する法律第一条(刑法第二六一条)、罰金等臨時措置法第三条第一項第二号、刑法第六条。

刑法第一八条。

刑事訴訟法第一八一条第一項但書。

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